お花の産地紹介, , 花を創るひと。

花を創るひと。#1 【産地:モテギ洋蘭園】

最終更新日:

花をもらう人がいれば、花を贈る人がいて、
その花を束ねたり、綺麗にあしらったりする人がいる。
さらにルーツを遡れば、その花を育てる人がいる。

美しい花が美しい理由を探るべく、花キューピットが「創り手」のもとを訪ねます。

ーーーーーーーーー

モテギ洋蘭園

今回、取材担当者が訪れたのは、埼玉県本庄市にハウスを構えるモテギ洋蘭園>
ここで生産されているのは、お祝いギフトの最高峰とも言える花・胡蝶蘭です。
3,200坪の広大な敷地で、ミディ胡蝶蘭を年間約15万株、大輪の胡蝶蘭を約12万株生産しています。

モテギ洋蘭園の胡蝶蘭は、国内で生産されている胡蝶蘭の中でもまさに一級品。
数多くのコンクールや品評会で受賞歴がある、高品質な胡蝶蘭です。

モテギ洋蘭園の広瀬さん
物腰柔らかに対応してくださった広瀬さん

取材に応じてくれたのは、販売企画部長の広瀬隆司さん
学生時代はデザイン系の専門学校に通っており、当時は広告関係の会社に就職しようと考えていたそう。
しかし花を扱う授業を受けていた時、講師を務めていた花屋の方に「うちに来い」と言われ、方向転換。花屋で一年間勤めたのち、21歳で株式会社モテギ洋蘭園に入社しました。

ハウス
ハウスは全部で17棟ある

 

胡蝶蘭栽培は「苗の品質」が8割

モテギ洋蘭園が作り出す胡蝶蘭の最大の強み、それは高品質で長持ちすること
ズバリその秘訣を広瀬さんにお聞きしたところ、「胡蝶蘭の品質を左右するのは苗ですね。8割くらいは苗です」と言います。

苗の手降ろし

モテギ洋蘭園での胡蝶蘭の栽培は、台湾からやって来る苗の手降ろし作業から始まります。
一度に届く数は300ケース程度で、全て手作業で行われます。

台湾における胡蝶蘭は、言わば「国策」の位置づけ。農業輸出額の約9割を蘭(そのほとんどが胡蝶蘭)が占める、重要な産業です。
モテギ洋蘭園はそんな台湾に自社農場を構え、苗の生育に最適な、温暖湿潤な気候のもとで苗を栽培しています。

台湾の現地で苗の栽培を手がけるのは、モテギ洋蘭園の子会社であり現地法人の<仁蘭園>
仁蘭園は、台南市後壁区にある胡蝶蘭の生産団地『胡蝶蘭パーク』にハウスを構えています。
「外周が10kmくらいある広い土地で、そこに何十社もの企業が温室を建てています」

台湾の国策ということもあり、『胡蝶蘭パーク』に温室を構えることができるのは「台湾人向けに胡蝶蘭を販売している企業のみ」というのが通例。
それにも関わらず、モテギ洋蘭園は2011年に現地での温室建設を果たしました。

「今の大統領、頼(清徳)大統領が台南市長だった時に良くしてくれて。日本の企業で唯一、特別許可を受けて入ることができたんです」
「日本でも世界最高品質の胡蝶蘭を」というモテギ洋蘭園の情熱が、難しいと思われた誘致に繋がったのかもしれません。

そんな台湾の仁蘭園で育てられる苗は「実生苗(みしょうなえ)」と呼ばれ、その管理期間はなんと約3年半!
3年半の育成の末、モテギ洋蘭園に届いた実生苗は、開花までさらに半年を要します。

苗
矯正されている苗

「首も伸びてくるので、この段階で矯正をしていくんです」と広瀬さん。
「花も本来は全部光(太陽)の方向に向いていくのですが、上手く行かないものが出てくるんです。太陽の方に正直に向かないものとか、ぐるぐる回転しちゃうものとか。それらとの戦いです」
支柱と洗濯バサミで、一つずつ苗を矯正する作業。
「出荷までに必ず5回は人の手が入る」という広瀬さんの言葉通り、胡蝶蘭は苗の段階から手間と労力を要することが分かりました。

そうして足掛け4年でようやく花が咲くまで成長した訳ですが、実はまだ折り返し地点に過ぎないのです…。

 

「世界にひとつだけの花」から「優秀なクローン」へ

私たちの想像する胡蝶蘭は、みな似たような花の形をしています。
一方、実生苗の花の形は様々で、2つとして同じ花は咲かないと言います。
「オリジナル。良く言えば“世界にひとつだけの花”ってやつなんですけど、そういうのはあまり売れない。まあ確かに、花を持たないものとかも急に出てくるんですよね」

自由に伸びた苗
自由に伸びた苗
個性が表れている実生苗たち

さらに言うと、実生苗の胡蝶蘭を規格品と認識していない花屋が多いそうです。
「(実生苗の胡蝶蘭は)お花屋さんにとって得体の知れない花なんですよ。それを高くは買ってくれないので、生産者は損してしまう」

損をしないための、美しい胡蝶蘭として認めてもらうための、次の工程。
それは、開花した実生苗の中から厳選し、質の良いクローン苗を大量に生産すること。

「花がより多くつくものとか、花の並び方が綺麗とか、花持ちが良いとか、葉っぱがコンパクトかどうか、根が張っているか、とか。あとは需要の高い色とかもありますし」
様々な基準で“優秀な胡蝶蘭”を選び出し、バイオ技術を用いて交配し、クローンを量産する。そうして生産される苗は「メリクロン苗」と呼ばれます。

根を張った苗
健やかな根。親指より太く仕上げるのがモテギ洋蘭園の目標だそう

モテギ洋蘭園で増殖したメリクロン苗は、実生苗と同様の工程で育てられます。
台湾で3年半管理されたあと、再びモテギ洋蘭園で開花〜出荷できる状態まで育成。
花芽が出てから、大輪の胡蝶蘭は約7か月、ミディ胡蝶蘭は約5か月半で出荷されます。

「台湾は一年中暖かいので、ちゃんとクーラーをかけない限り花芽が出ないんですよ。むしろその気候を利用して、台湾では花を咲かせずに苗を大きく太らせる。そして日本でやっと花を咲かせるようにする。これができるから、胡蝶蘭は一年中出荷できるんです」
台湾でしかできないこと、日本でしかできないことを互いに補完しながら、モテギ洋蘭園は一貫体制を築いています。
そして合計8年という長い年月をかけ、オリジナル品種の胡蝶蘭栽培を実現させているのです。

胡蝶蘭の栽培過程
胡蝶蘭の栽培過程 ※参考:モテギ洋蘭園HP(https://www.motegiyouranen.com/)

 

胡蝶蘭の美しさと届け先の配慮

花芽がついた胡蝶蘭はモテギ洋蘭園の適切な環境下で管理され、仕立てられ、美しい姿に変化していきます。

例えば、そのしなやかなステム(茎)
いくら肉厚で大きな花を咲かせたとしても、その花が正面向きに順序良く並んでいなければ、高品質な胡蝶蘭とは言えません。

モテギ洋蘭園は美しいステムを追求するために、また輸送時に形が崩れないように、支柱の太さや硬さ、その立て方にこだわっています。
「早いうちから支柱を入れて矯正する場合もありますが、あまり早く(ステムを)曲げてしまうと、ちゃんと生育しない場合もあって。ある程度ステムがしっかりしてから支柱で曲げていきます」

支柱と作業台
支柱を入れる作業台。これもまた労力を要する作業

 

太い支柱と細い支柱
左が太い支柱、右が細い支柱

様々な種類の支柱を使用しているモテギ洋蘭園。
支柱の立て方には、“見栄え”や“輸送のしやすさ”だけでなく、胡蝶蘭を受け取った方への配慮も表れています。

「例えば植え替えをする時とか処分する時とか、花が終わった後のことを考えると、細い支柱の方が取り扱いがしやすいんですよ」
「私たち(生産者)はグニャグニャ曲げられますけど」という太い支柱。
取材担当者もお借りして曲げようとしましたが、想像よりもずっと硬く丈夫で、確かに扱い方によっては不便さや危険性を感じてしまうかも。

「だから、細い支柱でも形が崩れないような支柱の立て方を開発中です。少しずつ改善させています」
モテギ洋蘭園にとっては、「美しい胡蝶蘭を美しい状態でお届けするまで」がゴールではありませんでした。
お届け先の立場に立って行われる、後工程まで視野に入れたぬかりない調整
支柱の立て方ひとつから、そうした創意工夫の姿勢が理解できました。

 

全国各地のお祝い事に寄り添う

ストックヤード
瑞々しい胡蝶蘭がずらりと並ぶ

苗の熟成には高温室、細かな管理ができる開花室を経て、ある程度の花を咲かせた胡蝶蘭は「ストックヤード」と呼ばれるハウスに移動します。
ストックヤードで胡蝶蘭は出荷待ちの状態になりますが、ここでも養生は続きます。

「3~4日に一回、水やりもします」と広瀬さん。
少ない回数のように思えましたが、植え込み材を水苔からバークと呼ばれる木のチップに変えたことで、水やりの頻度はこれでも増えたそう。
水苔は保水性が良いという特徴があります。なので水やりも6日に一回とかでした。ただ水をあげたらあげたぶんだけ吸って、しかも乾きにくいので病気になりやすいんですよね」
一方、水はけの良いバークは余分な水を吸収しないという特徴があり、水やりの回数は増えましたが管理がしやすくなったそうです。

バーク
こちらが「バーク」

このようにストックヤードで管理された胡蝶蘭は、様々な企業や団体、あるいは個人から個人への贈り物として、全国各地へ配送されます。

配送される胡蝶蘭
沖縄を除き全国に配送される

「梱包にもこだわっているんです」と広瀬さんは教えてくれました。
「箱が横に倒れてしまっても、なるべく傷まないような梱包をしています。(ステムを)後ろで止めたり。あとは厚みがある段ボールを使っているので、衝撃とかで潰れたりすることは滅多にないです」

またモテギ洋蘭園では、外気温に合わせて使用する段ボールも変えているそう。
「普通は、この段ボールのなみなみ(中芯)が一重なんですけど、冬場は二重の段ボールを使って保温します。これで気温の低い地域にも配送できるようになってます」
寒い場所が苦手な胡蝶蘭ですが、少しでも長持ちするよう、こだわりの梱包資材でお届けしています。

冬場用の段ボール
こちらが冬期用の段ボール

 

胡蝶蘭を再び咲かせる方法

胡蝶蘭の生産者、言わば専門家である広瀬さんに、花が落ちた胡蝶蘭を再び咲かせるコツについて尋ねました。

ポイントは2つだと言います。

    • 茎の切り方
    • 温度管理

まず、茎の切り方
「ここが節なんですよ、茎の節。ここから芽(花芽)が出ます」

茎の節
人差し指で示している部分が「節」

胡蝶蘭の茎には通常、節が5〜6個あります。
それらの節には、それぞれ「腋芽(えきが)」と呼ばれる花芽になり得る器官がついているため、この節の上で茎を切り、節を残す必要があります。
「逆に、節をたくさん残してしまうと全ての節から芽が出ちゃって栄養が分散されます。そうすると花が咲かないこともあって。一番良いのは、2~3節残すようにカットすること」
いくつか節を残しておくことで栄養が行き渡り、再び花を咲かせる可能性が高くなるそう。

もう一つは温度管理
「胡蝶蘭は、人間が適温だと思う環境がベスト」だと広瀬さんは言います。

ヒートポンプ
モテギ洋蘭園では全ての温室にヒートポンプを導入。冷暖房を切り替えることができる

ちなみにモテギ洋蘭園の温室は21〜22℃で管理されており、目安としては長袖一枚で過ごせるくらいの気温。
自宅でもそれは同様ですが、夏場は日差しを避け、高温になりやすい場所(カーテンのない窓際など)には置かないこと。そして冬場は冷える場所には置かないことが大切です。

水やりは、植え込み材の表面が乾いた時に行いましょう。
モテギ洋蘭園では3~4日の間隔で水やりをするとご紹介しましたが、これは一般家庭だと多すぎるそうです。
置かれた場所の湿度や植え込み材の素材にもよりますが、バーク植えの場合は6~7日に一回程度が良いでしょう。

花が落ちてしまった場合でも諦めず適切に管理することで、再び美しい花を咲かせる可能性があります。
胡蝶蘭をプレゼントされた際は、挑戦してみてくださいね。

 

ミディ胡蝶蘭の「楽しさ」

ストックヤードに並ぶ胡蝶蘭
温室は天井を高くすることで温度変化を最小限にし、空調効率を上げている

花キューピットでは、モテギ洋蘭園のミディ胡蝶蘭を販売しています。

取材中も、華やかな濃いピンク、愛らしさを感じる薄いピンク、元気がみなぎる黄色やオレンジなど、色とりどりのミディ胡蝶蘭が目を惹きました。
そんなモテギ洋蘭園のミディ胡蝶蘭は、自社で交配したオリジナルの品種がほとんど。
生産コストや技術面の問題から、独自に品種改良を行う団体は非常に稀。日本国内でも5社程度だそうです。

「やっぱりミディは育てていて楽しいです」と広瀬さん。
色で個性を表現できることの他に、ミディ胡蝶蘭を贈るという行為に「楽しい」理由があると言います。
「大輪の白い胡蝶蘭は、企業が形式的に贈ることが多いじゃないですか。その点、ミディ胡蝶蘭は個人がお祝いで贈ることが多いんです。だから、『あの色良かったよ』『綺麗なピンクにしてくれてありがとうね』なんて喜びの声があった時に、ミディやってて良かったなって思います」

また比較的若い年代の方も購入しやすいという点も、ミディ胡蝶蘭の魅力です。
「友達がカフェをオープンしました、とか。友達が結婚しました、とか。若い人がそうやってミディ胡蝶蘭を贈って相手に喜ばれたという体験をすることで、リピートに繋がっているんじゃないかな」

少しだけ個性的な、人と違う胡蝶蘭を贈りたい。
相手の好きな色やイメージに合った色の胡蝶蘭を贈りたい。
体験価値の高いミディ胡蝶蘭は、そういった贈り手の想いに寄り添うことができるギフトです。

 

 

 

高嶺の花であり続けること

ミディ胡蝶蘭

「もっと手軽に、身近な存在にしたいという気持ちはないですね」と広瀬さん。
「胡蝶蘭を一般普及させるべきだと考えている生産者もいます。だけど私の考えだと、胡蝶蘭は“高嶺の花”っていうキャラクターを崩しちゃいけないと思ってるんですよ」

花の市場が欧米諸国と比べて小さい日本。
百貨店で販売されている花が、ホームセンターでは半額以下で販売されていることも多々あります。
他の植物と比べて膨大な生産コストがかかり、手が届きにくい点こそがブランドの価値である胡蝶蘭は、こうした「意図しない流通」を避ける必要があります。

その点、モテギ洋蘭園の高品質な胡蝶蘭は、ブランドイメージを維持し得る知識や技術の賜物。
「胡蝶蘭農家にはトヨタくらいのブランド地位を目指す人もいるし、日産やダイハツを目指す人もいるかも知れない。うち(モテギ洋蘭園)は良い胡蝶蘭を作っている限り、ベンツとかポルシェとか、そういうブランドを目指しています」

高いブランド力を維持しながら、先を見据えて挑戦したいこともたくさんあるそう。
例えば、少子高齢化に伴うお供え需要への対応や、海外在住者向けのチャネル開設。
こうした販路拡大に加え、「飽きられない仕掛けをしていかないと」と広瀬さんは言います。

「例えばラッピングもモテギ洋蘭園オリジナルで作られたらな、と。あとは通年商品(年間通じて販売している商品)のリニューアルですね」
モテギ洋蘭園では品種改良のもと、年間で胡蝶蘭を5~6回リニューアルさせ、それをスポット商品(一時的に販売される商品)として販売しています。
「飽きられないために、提案する品種を変えていくこと。通年商品に対しても一回大幅にリニューアルさせて、バージョンアップしてやっていければいいな」

ストックヤードに並ぶ胡蝶蘭

モテギ洋蘭園は、自らが手がける胡蝶蘭に誇りと自信を持っています。
同時に、いつだって向上心を忘れていません。
「良い胡蝶蘭を生産しているからには、他の生産者が絶対に真似できないくらいクオリティの高いものにしたい」

贈る人にとっても贈られる人にとっても特別な花、胡蝶蘭。
そんな花を創るのは、胡蝶蘭のステムのようにしなやかな心と、8年にもわたり胡蝶蘭の成長に向き合う真っ直ぐな心、その両方を持ち合わせた生産者でした。

広瀬さんと胡蝶蘭

最終更新日:  | Posted in お花の産地紹介, , 花を創るひと。No Comments » 
Loading Facebook Comments ...
Comment





Comment



前のページへ