父の日に贈る、
あたらしい家族
「父の日はいつでしょう」
そう聞かれて即答できる人は、日本にどれくらいいるだろう。
正解は「6月の第3日曜日」なのだが、私もこのエッセイを書くまで知らなかった。
「母の日の1ヶ月後くらい」と、なんとなくしか記憶していないので、毎年その直前になって姉とバタバタ相談することになる。
姉は私と同じく東京に住んでおり、毎年「今年の父の日はどうする?」と連絡をくれる。
私と違ってマメなところは見習いたい。
欲しいものに表れる、父の人柄
上京して7年目。
「6月の第3日曜日」は帰省に適したタイミングとは言えないので、プレゼントは配達で送るのが毎年恒例だ。
熊本を離れて4年目あたりだったか。
相談の始まりが「今年の父の日はどうする?」から、「今年の父の日もビールにしようか」に変わった。
ちょっと変化をつけたいなあと思いつつも、やっぱり定番のビールになる。
「父の日にはビール」、が姉と私の間で定着したのは、決して考えることを放棄したからではない。
「何か欲しいものある?」と父に聞いたことだってある。
なんなら毎年、誕生日にも聞いている。
でも、返ってくる答えはいつも同じ。
「特に何もないよ」
去年の誕生日は、粘りに粘ってヒアリングした結果、
「電動ひげそりの替刃」という答えを引っ張り出すことに成功した。
確かに生活必需品にしては値段が高いし、もらえたら嬉しいものなのだろう。
ただ、記念日には、何か特別なものを贈りたい──
成人した娘たちのエゴもあったりする。
とはいえ、「電動ひげそりの替刃」は、日常を大切にする父らしい回答でもある。
朝は5時に起きて、仕事が終わるとまっすぐ家に帰り、22時頃には就寝。
このルーティーンが崩れることは、年に数えるほど。
平日における変化と言えば、ネクタイ柄と毎日の晩酌のおつまみくらいだろうか。
ちなみに私は、このおつまみを1口だけもらうのが好きだった。
スケジュールの話だけ抜き出すと、かなり真面目な人である印象を受けるかもしれない。
まあ実際、真面目なのだが、土日には趣味を謳歌する一面もある。
ゴルフの打ちっぱなしに行ったり、バイクで阿蘇までドライブに行ったり。
初めてバイクの後ろに乗せてもらって興奮した私を見る、父の得意げな顔は今でも覚えている。
父は照れると、ふにゃりと笑う。
私が野球をやっていた頃には、キャッチボールにもよく付き合ってくれた。
雨の日にも「キャッチボールがしたい!」という私の希望を叶えるべく、大きな橋の下まで車で連れて行ってくれた。
日常を大切にする父の「日常」には、きっと家族との時間も含まれている。
父は基本的に無口だが、行動で愛情を示してくれる人だ。
父と植物
そんな父の日常には、たまに「植物への水やり」が追加される。
母が祖父母に会いに、大阪へいくときだ。
特に祖父が体調を崩していた時期、母は2~3週間大阪に滞在することもあった。
私と姉、兄も実家を出ているので、母が不在の間、植物の面倒を見るのは父の役目になる。
室内とベランダ合わせて13種類ほどある植物は、それぞれ水やりの頻度や水の分量が違う。
だから母は家を出る前に、「水やりマニュアル」を残す。父はそのマニュアル通りに水やりをおこなうのだ。
真面目な父は、任された仕事はきっちりとこなす。
だから、どれだけ長く母が家を空けても、父は植物を枯らしたことはない。
しかし、母の趣味である植物への水やりについて、実際、父はどう思っているのだろう?
水をあげるとき何を考えているのだろう?
ふと気になり、母に電話で聞いたことがある。
「私が大事に育ててることを知ってるし、『枯らしたらお母さんが悲しむ』と思って、やってるんじゃないかな」
と母は答えた。
なんだか、のろけ話のようで聞きながらにやりとしてしまった。
父の植物への気持ちについては、母も気になったらしく、後日、母が聞いてみると父はこう答えたらしい。
「家に一緒にいる存在だから枯れてほしくないし、元気に育ってほしいと思いながら水やりしてるよ」
……母の思っていた方面とは若干違った。
ただ、父にとって家にある植物は「観賞用」でも「母の趣味」でもなく、「家族」なのだなと思うと、なんとなく私はジーンとしてしまった。
無口なので、何を考えているのか読めない部分もある父。
その分、父の心情を聞く機会は、私にとって貴重だった。
植物へのお世話だって、きっと父は「使命感」でやっているのだろうと思っていた。
でも、実際は、しっかりと愛情をもって植物たちに接していた。
今や私よりも、毎日顔を合わせている植物たちの方が、父のことを良く理解しているかもしれない、とさえ思う。
よし。今年の父の日は、お花を贈ろう。
欲しいものを聞いても「特にない」父には、私があげたいものを贈ってしまおう。
コロナの影響もあってなかなか帰省できない状況だからこそ、日常に溶け込める方法で感謝を伝えたい。
お花に想いを込めて、父の日が終わった後も、私の代わりに伝えてもらおう。
父ならきっと、お花のことも「家族」だと思って受け取ってくれるはず。
お世話の手間をかけてしまうけど、きっとそんな日常も大切にしてくれるはず。
お花をもらった経験は、ほとんどないだろうから照れるだろうな。
きっと、あのふにゃりとした顔で、笑うだろう。
編:小嶋らんだ悠香
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